覇権を決めるもの
本日の日経新聞のDeep Insight Opinion欄に、『「通商」の衣着た覇権争い』という記事が載っています。
題名を見て、「お!」と思ったのですが、内容は「米国がねらうのは、中国のデジタル覇権の阻止」「ハイテク超大国をめざした産業政策を後退させ、米国に追いつくのを阻むつもりだろう」との内容でした。
ハイテク・デジタル分野でアメリカが断トツに進んでいるので、簡単には覇権は移らないと思っている人は多いのでしょう。
しかし、日本のハイテク企業の競争力が失われた原因を考えれば、デジタル分野だけ競争力を保つのは困難であることが分かると思います。
日本のハイテク企業は円高による競争力低下に対応して生産工場を海外に作る一方、マザー工場を日本に残して研究開発・技術力を維持しようとしました。しかし、市場や生産現場を持たない研究開発が競争力を維持するのは極めて困難です。
生産現場からのフィードバックや、製品化したうえで消費者の反応を反映することで研究開発が促進されるためです。
すでにハイテク分野においても主要工場は中国に移っています。マーケットとしても中国が世界一の市場になりつつあります。インターネットの利用者数をみれば、今後の新サービスの出現はアジアが中心になる可能性が高いと思います。Googleの中国再参入はそうした危機感の表れではないかと推察されます。検閲反対などと言っているうちに、技術力で中国に逆転される可能性があるのです。
しかし、すでにアメリカが再び中国を逆転するのは難しい局面まで来ているだろうという事実は直視すべきだと思います。
参考に、過去のGDPを推計したものを見つけたので載せておきます。これを眺めると、過去の覇権の移り変わりや戦争での勝敗が、ほぼ経済的な側面で決まることが分かります。(日清戦争、日露戦争などの例外もありますが、これは当時の清やロシアが内部分裂状態にあったことが要因と思います)
なお、覇権が交代するときに起こることについて、そのうち、まとめたいと思っていますが、歴史書によれば、通貨下落・インフレとなっています。
ドルの評価については何度か書いていますが、現在の相場は基軸通貨プレミアムが大きく織り込まれているので注意しておいた方が良いと思います。
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覇権国家の交代
先日、アメリカは貿易戦争に勝って競争に負けると予想しました。
一部のIT産業を除き、産業競争力、人材の厚み、社会インフラなどの面で中国はアメリカを抜きつつあります。さらに人口、地理的条件などにおいて中国はアメリカより有利な立場にあります。従って、覇権は大方の想像より早いタイミングで中国に移るかもしれません。
英語が母国語どうし、アメリカとの意思疎通がスムーズですし、情報も入手しやすいからです。
今後、どのスピードでアメリカから中国へ覇権が移るかは、中国の言語政策次第と思います。
中国は、他民族を征服し、中華化を強制することで巨大な国家となりました。その歴史から考えれば、世界公用語第一の座を英語から中国語へシフトさせることを狙ってくる可能性があります。
そうなったとき、中国語ができないと最先端の情報に触れることができない時代が早期に訪れるかもしれません。(その間にAIによる自動翻訳が完成してコミュニケーションに問題ない状態になっていれば良いのですが)
10年単位でみると、こうした未来も意識しておいた方が良いと思います。
転換点
本日の株価下落の原因はトルコリラの下落とされていますが、それだけではないと思います。
相場下落の背景は、①アジアなどの新興国でインフレ率が危険水準に近づいていること、②スマホ需要の頭打ちと仮想通貨の低迷によるマイニング需要の減少で半導体投資がピークを迎えているとみられること、③(インフレ圧力の高まりから)米国、欧州に続いて日本でも金融緩和からの修正が始まっていることなどです。
日本では根強いデフレ圧力が強調されていますが、世界的には(実は日本でも)着実に物価上昇圧力が高まっています。失業率が低下し、求人倍率が高まっていることから賃金の上昇が始まっています。日本でもGDP統計でみると雇用者所得が前年比+4.3%と伸びています。
これは、金融市場の動揺に対して、中央銀行が機動的に動いてくれない可能性を強く示唆しています。(セントラルバンカーは、慌てて金融緩和に踏み切ってインフレを惹起することを最も嫌うため)
日本はオリンピック前の建設需要のピークまであと1年あることや、安倍政権が続いている限り株価下落を放置してまで金融緩和の修正を行う可能性が低いことから、お盆中で板が薄い中で慌てて下をたたく必要はないと思いますが、今回は相場の転換点になることを意識しておくほうが良いと思います。
トルコリラ下落のほんとうの原因
トルコリラの下落がとまらなくなり、世界的に金融市場へ悪影響を与えています。
しかし、新聞報道は誤りで、通貨下落がとまらないのは実体経済がひどい状況だということを認識すべきと思います。
日本では、30年間にわたる経済低迷の経験から、日本経済がひどい状況にあるとコメントすると大抵の場合、納得してもらえます。
そのため、日本の状態が悪い状態で、それと逆の状態が良い状態とされることが多くなっています。これが多くの誤解を生んでいます。
つまり、成長率が加速せずインフレ率が上がらない日本は構造的な問題があって、成長率もインフレ率も高いトルコ経済は、力強く良好な状態とされているのが、今回のトルコの「実体経済は良好で安定」とのコメントが多い理由と思います。
しかし、アジア通貨危機など金融恐慌の前は、必ず成長率・インフレ率・(+経常収支赤字)が加速します。
現在のトルコはこれに近い状態にあります。
経済が健全な状況であれば、政治対立等によって通貨が大幅に低下すると、輸出が価格面で極めて有利となり、輸出が増加します。他方、輸入は抑制されます。
そのため経常収支が黒字化(黒字拡大)し、通貨下落にブレーキがかかります。
しかし、トルコでは長期にわたって通貨が下落しているにも関わらず経常収支が悪化しています。これは、産業競争力が劣っていることを意味しています。
金融引き締めへの第1歩が始まった
2018年7月31日の金融政策決定会合で金融政策の運営方針が変更されました。
ポイントは、以下の2点です。
② 長期金利振れ幅を2倍に拡大
すでに新聞等でいろいろコメントされていますが、きちんと見れば、金融緩和の度合いが緩められており、金融引き締めへの第1歩といえます。
しかし、2016年に決定された今までの枠組みには、「オーバーシュート型コミットメント」というのが入っています。
これは、「2%の物価上昇が安定的に持続するために必要な時点まで現在の金融緩和を続ける」と日銀が約束しているものです。
現在の物価上昇率(1%未満)を考えると、今までの方が金融緩和継続への意思が強くみえます。少なくとも金融緩和継続への決意が強くなったようにはみえません。
実際、2016年の現行の枠組になった以降でも。ほとんどの期間で長期金利は0%~0.1%のレンジで推移してきました。
つまり、公式には「ゼロ%程度」の許容範囲を0.2%に拡大ということは、
「-0.1%~0.1%」→「-0.2%~0.2%」の変更【中心値は0%で変更なし】であり、
金利水準の上げを想定していないと強弁可能になっていますが、
実際には
「0%~0.1%」→「0%~0.2%」の変更【中心値0.05%→0.1%】であり、
明らかな金利水準の切り上げを意味することになります。
さて、今回の政策変更で重要な点が2点あると思っています。
1点目はこれまで説明してきたように金融緩和の修正(金融引き締めの第1歩)であるということです。
そして、2点目は、また嘘つきの日銀に戻ったということです。
安倍・黒田体制になって、詭弁が減り、良くも悪くも物価を基準にしたシンプルな政策だったものが、それ以前の詭弁だらけ、理屈は後からつければよいという体質の日銀に戻った可能性があります。
そうなった理由として、①安倍首相の3選がほぼ確定し、支持率維持のために株価最優先の政策をとらなくてもよくなったこと、②黒田総裁が再選された(再再選は絶対にない)ので、政府の意向を最優先しなくてよくなったことが考えられます。
つまり、2013年から続いていた政府優位(支持率に大きな影響を与える株価最優先)の構図が変わり、日銀優位(インフレ防止に偏った政策運営)の構図に戻った可能性があります。過去30年は、このタイミングで常にデフレ、株価下落が発生しました。
オリンピックまで2年を切りましたし、政策動向には要注意しておいた方が良い時期に入ってきたと思います。
戦争に勝って競争に負けるアメリカ
アメリカによる対中制裁関税と中国による対抗策が貿易戦争と言われています。
この表現が正しいかどうかを別にして、このやり取りは、圧倒的にアメリカが有利です。
中国からアメリカへの輸出額が圧倒的に大きいということは、関税を課すのは簡単です。目的もそれを減らすことですから、深く考えずに課税範囲、税率を上げていけばいいのです。
しかし、この貿易戦争に勝つかどうかということと、経済競争に勝つかどうかということは別問題です。
研究開発を行うのは机上ではありません。ノートとペンだけでは開発はできないのです。実験や製品化のトライアンドエラーを繰り返すことが必要です。つまり、研究開発でもアメリカはすぐに中国に抜かれると思います。
貿易戦争は、行き過ぎた製造業の空洞化を緩和して、下層にいるアメリカ国民に恩恵をもたらすものの、企業に競争力をもたらすものではありません。
貿易戦争に勝っても、アメリカ産業の競争力は上がらないと思います。
そうした現実をより冷静に見ているのは、地理的に離れている欧州です。
中国と地理的に近い日本は、そうした歴史的な流れを読んで動く必要があります。
アメリカの制裁関税について
アメリカの対中制裁関税で最も損害を被るのは、中国で商品を製造・調達し、アメリカへ輸入して利益を上げてきた外資系企業、特にアメリカ企業だとの記事をよく見るようになりました。
最も損害が大きいかは別にしてアメリカ企業が損害を被るのは確かだと思います。
その企業に勤めている多くの社員ですら、会社が得た利益の恩恵はほとんど受けていないと思います。まして、一般のアメリカ人に利益はありません。
(低インフレの恩恵はありますが、それにあわせて賃金も伸びていません)
つまり、対中制裁政策とは、グローバル化の恩恵を受けてきた所謂「勝ち組」と二極化の下層に追いやられた一般大衆の対立ということです。
一般大衆に利益を与える政治が悪いというのは誤った価値観です。国の総合力が弱ると軍事的に侵略されるという時代でもないので、GDP拡大などの国力アップを唯一絶対の目標にする必要はないのです。