賃上げを景気回復の手段とする考えは全くの誤り
仕掛け人は誰だか知りませんが、賃上げが景気回復の有効な手段との考え方が広まりつつあるようです。
9/30の経済財政諮問会議で安倍首相が「経済界全体に賃上げの動きが広がり、デフレ脱却につながることを期待する」と発言したことが報道されています。
また、10/6の日本経済新聞の大機小機というコラムでは「賃上げはデフレ脱却の切り札」という記事が掲載されています。
しかし経済が不調な時に政府主導で行うマクロの賃上げはデフレ加速に作用します。
まず第一に、賃上げを行ってもすぐには消費は拡大しません。
消費の決定要因は複雑で、賃金が1.2倍になったら消費も1.2倍になるというものではなく、マインドなど様々な要因によって決まります。消費のタイミングにもラグが発生します。
二点目に、賃上げを行うのと同時に売り上げが増えなければ企業業績が悪化します。
企業利益は売り上げから費用を引いた残りですが、人件費は費用の大きな部分を占めています。その人件費が増えればマクロ的には確実に企業業績が悪化します。
三点目として、株価下落の可能性が極めて高いです。
株価は将来の予想利益(または利益から支払われる配当金)の現在価値で算出されます。
賃金が上がれば消費が増えて需要が拡大すると主張する人がいますが、不確実性が伴います。よほど市場参加者(投資家)が強気に傾いているときでないと、株価は将来の売り上げ増加を織り込むことはないと思います。
むしろ、政府主導でマクロの賃金引上げが行われた場合、再び人件費を抑制するのは容易ではないと考える投資家が多くいると思います。その場合、株価は将来の利益の合計ですから、1億円利益が減少すると(PERの市場平均が15倍ぐらいなので)時価総額は15億円ぐらい減少します。
つまり、賃金が2億円増えると(税金を考慮して税引き利益が1億円減少するため)、株の時価総額が15億円減少します。
四点目として、株価下落を受けて消費が減少する可能性が高いです。
2億円の賃金増加に対してそのれ以上の保有資産の評価額減少があれば、消費は(賃上げを受けて増加するより)むしろ減少する可能性の方が高いです。これをマインド効果といいます。
マインド効果で消費が低迷すれば、株価は足元の業績悪化以上に下落しデフレが加速する危険性さえあります。
補足ですが、海外の著名な経済学者が(一般論として)最低賃金の引き上げを提案しています。
しかし、これはあくまでも財政金融政策(マクロ経済政策)をうまく運用して、経済を良好な状態に保ち続けることが前提となります。
人件費の引き上げがデフレ脱却の対策になる(つまり人件費引き上げがマクロ経済政策の代用となる)というのは全くの誤りです。
なお、同じテーマで今年の8月にも書いていますので、こちらも参考にしてください。