終戦時のインフレについて考える
今回は終戦時のインフレについて考えたいと思います。
何度か書いているように、終戦時に急激なインフレが繰り返し起こっています。特に敗戦時にはインフレ率が高くなります。
この終戦時のインフレを理解するためには、戦争中からの連続で考えることが必要です。
以前書いたように中央銀行はもともと戦費を調達するために作られた機関であり、世界大戦のような大きく長い戦争になった場合は、どの国も国債引受も含めて中央銀行の機能をフル活用して戦争を遂行します。また、財政収支も大幅な赤字となります。
しかしながら、戦争中は急激なインフレが起こることは少なく、急激なインフレが起きるのは戦争が終わってからです。これはどうしてでしょうか。
戦争中は、資金だけではなく生産要素(機械設備、労働者)が兵器製造に振り向けられますから、民生品の生産は減少します。しかし、生活必需品の供給が減少してインフレが起きると戦意が下がり戦争継続が難しくなりますから、どの政府も価格統制でインフレを防ぎます。
生産(供給)が細る中で価格統制が行われると、価格による需給調整機能が働きませんので需給のバランスが崩れて大幅な物不足がおきます。
つまり、価格は一定に保たれているものの、その価格で買いたくても物が入ってこないので買えないという状態になります。そうなると、事実上の配給制のような形で、例えば地域ごとに商品を一定数ずつ割りあてるなどの方法で商品を分配します。
この場合に割を食うのは、資金があり、もっと高くても物が欲しいと思っている富裕層です。通常の市場経済では、物不足になるともっとも購買力(資金力)がある富裕層が高い値段で購入し物を独占することになります。しかし、戦時中はそれでは社会が不安定化するので価格統制で富裕層に購買(消費)あきらめさせ、商品を広くゆきわたるようにします。
しかし、終戦になって価格統制が緩むと、富裕層が資金力にものを言わせて購入(消費)し始めるため価格が上昇し、低所得層が購入できなくなります。
もっとも、富裕層は、インフレによって保有財産の実質価値を大幅に減らす一方、低所得の労働者は、給与がインフレを反映して上昇すれば購買力を回復できますので、経済安定後は富裕層が大きな痛手をこうむることになります。
さて、以上のようにどの国でも終戦時にはインフレが発生しやすくなりますが、敗戦時にはさらに戦争賠償金の支払いが加わることになります。
賠償金は外貨で支払わなければならないため多額の自国通貨売り、外貨買いの取引が発生します。敗戦による国家信用の低下と相俟って為替が大幅に下がり、輸入インフレが加わるため、通常の終戦時よりさらにインフレ率が高くなります。
以上のように戦争とインフレの関係を考えてみるとポイントは需要と供給のバランスがどうなっているかにつきるということになります。国債引受や財政収支が問題なのではなく、その結果として発生しがちな供給不足がインフレを起こすということです。