ndtm50の日記

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賃金引上げを促す政策は消費の減少を促す政策

8月2日にIMFが日本の経済政策に関する報告を公表し、アベノミクスの改善点として、企業に対して賃金の引き上げを促すような政策の導入などを求めました。

また、アベノミクスがうまくいっていないことを主張する流れで、企業が利益を溜め込みすぎて実質賃金が下がっており、それが消費不振・景気低迷の要因だとする論調が増えています。

このブログは、実質GDPが伸びずインフレになっていない以上、政府は景気拡大(刺激)に努めるべきとの立場をとっていますが、その観点から考えると企業に賃金引上げを促す政策は、まったく的外れな危険な政策と考えています。

その理由は、過去、賃金上昇時にはむしろ消費が伸びないことが多く、それが論理的に説明可能であることです。


さて、なんとなく所得が増えれば消費が増えるように思えますが、実際には、家計の消費行動というのは極めて複雑で、経済学の中でも解明されていない部分が多い分野です。

過去、有名な経済学者によって消費に関するいくつかの仮説が唱えられ、それが教科書にもっともらしく解説されていますが、実際の統計で調べてみると理論どおりに説明できないことがほとんどです。

理由は、家計の消費行動というのはきまぐれで、ちょっとしたマインド次第で大きく振れること、及びマインドの決定要因が複雑だからと思われます。


教科書的に説明すると、家計は労働を提供して所得を得、その中から消費します。

これを式にすると、消費=所得×消費性向 となります。

この式をみると所得が消費を決める変数となっており、所得が増えれば消費も増えるようにみえます。
しかしながら、マクロでみると消費はせいぜい2~3%ぐらいしか増えたり減ったりしない一方で消費性向は大きく変動します。従って、消費の増減を考えるには所得よりもマインドの動向を考える必要があるのです。しかし、経済学の教科書ではこのマインド面についてあまり説明していません。それが多くの経済学者が実態を読み間違える要因と思われます。


さて、消費に関する過去データの観察を踏まえた私の仮説は以下のとおりdす。

まともに生活できない衣食住が不十分な家計では所得のほぼ100%が支出に回り所得が消費を決めることになりますが、現在の日本ではそのような家計はほとんどありません。むしろ、消費を決めるというよりは、将来に向けていくら貯蓄に残すかという選択しているケースが多いと思います。

そのような考え方から、先ほどの消費の式を少しだけ修正すると 消費=所得×(1-貯蓄率) となります。

ここで、多くの家計で、老後の生活資金分を予想してその必要分を残せるように貯蓄率を決めていると考えてみます。その場合、貯蓄率を決めるのはどのような要因でしょうか。

所得の金額が貯蓄額を決めていると考えた方は幸せな方です。

私の過去の経験(統計の分析)では、雇用環境(失業率、新規求人倍率など)が貯蓄率に大きな影響を与えるとの結果になりました。

それは、所得の増減などせいぜい5~10%の変動ですが、失業すると所得は100%減となることから、より影響が大きいということだと思います。

つまり、個々の家計で考えると、所得の増減より失業するかどうかという問題ははるかに深刻で、景気が悪化して派遣切りや大幅リストラの話が出始めると、マインド面から消費が大幅に減少する(貯蓄率が大幅に跳ね上がる)のだと思います。

他方、景気が回復を始め失業の懸念が遠のくと貯蓄率は急低下して消費は大きく増加します。

また、もう一つ将来の生活資金に影響を与えるのは、保有資産の評価額の動向です。これは、地価と株価が大きく影響します。住宅ローンを抱える家庭でマンション価格が下落すると、純資産が大きく目減り(さらにマイナス化)しますので、節約して貯蓄率を上げて保有資産の減少を防ごうとします。株価の変動も少なからず保有資産の評価額に影響を与えると思います。

なお、特に株価下落は保有資産の減少だけではなく、リストラなどによる雇用不安を意識させる効果もあると思います。

そして、実際に株価の動きが消費の動きに先行することが多くなっています。


以上の説明はあくまでも仮説ですが、実際にマクロで消費の動向を分析すると所得よりも雇用環境と株価動向が大きく影響していますので、現実の動きを説明できているという意味でこれらの仮説は正しい可能性が高いと思っています。


それでは、どうして企業に賃金引上げを促す政策が問題なのでしょうか。

それは、現在のような生産活動が停滞している状況で賃金を上げれば、企業業績が減少するためです。企業業績の減少が予想される時点で、株価が下落を始めます。

株価が下がればマインド低下から、GDPの半分以上を占める個人消費が減少します。個人消費が減少すれば売上が減りますので企業業績はさらに悪化し、それを織り込んで株価がさらに下落するというスパイラルに入ってしまいます。

これを防ぐには、金融政策で資産価格を上げるか円安で輸出を増やす(生産を拡大する)しかないのです。日本銀行は(建前で)資産価格を金融政策の目標にしないとしていますが、本来、資本主義とは資本(=株価)を中心とした経済制度ですので、資産価格を通じたパスを無視していては正確な理解ができるわけないのです。


蛇足ですが、私が株式投資をする上で重視している指標の一つにGDPの伸び率と雇用者所得の伸び率の差を計算したものがあります。

GDPの伸び率より雇用者所得の伸び率が大きくなると、企業は生産増(=売上増)以上に人件費(=経費)を使うことになり、利益が減少します。従って、株価は下落する可能性が高くなります。株価が下落すると消費も落ち込み、株価下落のスパイラルはマクロ経済政策の対応があるまで続くことが多いです。

このGDP伸び率と雇用者所得の伸び率は、時系列で追っていると、半年程度先を予想するのはそれ程難しくないことが分かります。そして、伸び率の差から算出した指標による企業の利益予想は、大手金融機関に所属する有名エコノミストの企業収益予想よりはるかに正確に企業利益を予想できますので、試してみることをお勧めします。