ndtm50の日記

ブログ5年目に突入!

ハイパーインフレについて考える

過去の記事を読んだ方は分かると思いますが、このブログは、アベノミクスの失敗は財政金融政策による景気刺激が足りないためとの立場をとっています。

圧倒的多数派の主張は、私とは逆に、これ以上の刺激は副作用が大きくなりすぎてできないというものです。

副作用とは究極的にはハイパーインフレを指すと思われますので、今回はハイパーインフレについて考えてみます。(きちんと読んでもらえば、さらに景気刺激策をとってもハイパーインフレにはならないことが理解できると思います)

具体的に何%以下が通常のインフレで何%を超えるとハイパーインフレという定義は難しいですが、ここでは制御不能となった急激な物価上昇をハイパーインフレとして考えます。

制御不能な物価上昇はどうして起こるのでしょうか。

通常は、経済取引に価格メカニズムが働きますので、価格が上がるとたくさん売りたいという人(企業)が出てきて供給が増加し、購入をあきらめる人が出てくる(需要が減少する)ため、物価上昇に歯止めがかかります。

ハイパーインフレとは、この価格メカニズムが働かなくなることです
つまり物価が上がっても供給を増やせないことがハイパーインフレの背景となります。


これはどうして起こるのでしょうか。歴史をみると原因としては二つあります。

1つ目は、生産能力が不足して供給を増やせない場合です。

2つ目は、インフレが通貨下落を加速させて輸入品や原材料の価格上昇を招き、コスト上昇が同価格での供給減を招くパターンです。

ただし、2つ目のパターンは、輸入品の価格が上昇すれば通常は国内品に切り替えられますので、それができない、つまり国内生産能力の不足がこの場合も前提となります。


それでは、ハイパーインフレに至るような生産能力の不足はどのような場合に起こるのでしょうか。

歴史上、大半のハイパーインフレは戦争の終了と同時に発生しています。
これは、戦争によって生産設備が破壊されることが原因です。さらに、戦争中は配給制で需要が極端に抑制されていますが、終戦と同時に需要が増加して生産能力の圧倒的な不足が顕在することが原因です。

また、敗戦国では信用低下や戦争賠償金の支払いから通貨も下落しますので極端なインフレが発生しやすくなります。

ハイパーインフレで有名な第一次世界大戦後のドイツでは、戦争賠償金の支払いのため、戦勝国側がドイツの中央銀行に通貨を発行させて外国為替市場で外貨に替えさせました。その結果、ドイツの通貨は大幅に下落し、インフレに拍車がかかったとされています。


戦争が絡まないパターンとしては、人為的に割高な状態にあった通貨が何かのきっかけで下落するケースです。これは主に中南米やアフリカといった発展途上国で何度か発生しています。

政府の通貨政策や投資家がある国の将来性に非常に楽観的にになって投資が増えた結果、通貨がその国の実力比で割高になることが多くあります。

その場合に、輸入が増加して輸出が抑制されます。それが長期間続くと国内産業の投資が抑制され、生産余力も低下します。輸入増と輸出減で貿易収支・経常収支も赤字になると輸入代金は海外からのファイナンスで行われることになります。

これが固定相場制やドルペッグ制で長期間いた後、何かのきっかけで通貨下落が始まると、通貨下落が輸入品の大幅な価格上昇を招きます。

ここで生産能力に余力があれば、通貨下落が輸出増につながり、輸出代金の自国通貨への交換ニーズが増加するため通貨下落が止まりますが、内戦や独裁で経済振興を怠っていたため生産能力に余力がなく、通貨下落が経済の混乱を招いてハイパーインフレに至ることが過去何度かありました。


これ以外の特殊な例として、景気が過熱してインフレが発生しているのに政府・中央銀行が景気抑制策をとらずに放置した(またはさらに景気過熱策をとった)結果としてインフレ率が大きくなるケースがあります。日本の江戸時代のインフレは、これに該当します。


これまで説明したように、ハイパーインフレは取引価格の問題ですから、(金融ではなく)実体経済の需給関係で理解し、対応すべきものです。中央銀行が金融政策で物価安定を目指しているので、物価は金融の問題とする人が多いですが、これは誤りです。

また、ハイパーインフレをシニョリッジ(通貨発行益)との関係で語られることが多く見られますが、これは(先日、本ブログで書いたとおり、)歴史的に中央銀行が戦費調達のための国債引受けのために作られ、戦争のためにシニョリッジが過度に活用されることが多いことを、理論的な因果関係を深く考えることなく語っているものなので注意してください。

つまり、国債引受やヘリコプターマネーなどを深く考えずにタブー視するのではなく、こうした理論的な枠組みをきちんと整理したうえで、実体経済をよく観察して適切な政策を実行するのが必要だと考えます。