ndtm50の日記

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イギリスのEU離脱・アメリカのトランプ現象の根本要因

イギリスでEU離脱派が国民投票で勝利し、アメリカではトランプ大統領候補がたくさんの支持を集めてきました。

 

これらの原因について、日本国内では情緒的な内容で語られることが多いように思いますが、表面的な感じがします。これらの現象は、世界経済の大きな流れの中で経済を軸に考えた方がはるかに論理的に考えることができます。

 

そのためにはまず、世界経済がどうしてデフレ化しているのかを考える必要があります。

 

インフレ/デフレは貨幣的な現象という人がいますが、これはデフレを表面的に捉えているだけです。デフレになるのは、供給量が需要を上回っているため安くてもいいから売りたいという人(企業)が多いためです。逆に、供給量が需要よりも少なければ、高くてもいいから買いたいという人が多くなるため値段があがりインフレになります。歴史的に貨幣が増刷(改鋳)されてインフレになることが多かったのは、政府(王朝)が改鋳した分を消費に使って需要が拡大する一方供給には変化がないため、供給量と需要のバランスが崩れインフレになることが多かったためで、インフレが貨幣的な現象だからではありません。

 

さて、それではどうして世界的に供給量が需要を上回るようになったのでしょうか。

 

これは技術革新や情報化によって供給量が伸びているにもかかわらず、それに見合うだけの需要が増えていないためです。

 

供給量の増加に伴って地球上で生活できる人類の個体数が増加しますので、世界人口は増加の一途を辿っていますが、供給量の伸びには達していません。また、技術革新によって供給量が増えた分、一人当たりの消費量が増加して生活が豊かになればよいのですが、実際にはそうなっていないケースが多くなっています。

 

それでは、どうして一人当たりの消費量が十分に増えないのか。

 

経済学の基本原則の一つに三面等価の原則というものがあります。これは、一国の経済を合計すると「生産」=「所得」=「支出」が同じになるというものです。

 

つまり、生産量が増加すると所得も同じ分だけ増加することになります。全ての人の所得が同じように増加すれば、同じ割合で支出も増やし、人々の生活は豊かになります。

 

しかし、実際には生産量の増加が技術進歩と情報化(及びそれによる生産活動の集約化)によって成し遂げられているため、新たな技術を使える人とその他(普通の人)の間で富の偏在が発生しています。所得が大きい人は、使える金額をはるかに上回る所得をえて消費性向(=消費量÷所得)が極端に低くなります。他方、普通の人は技術革新で今の職が失われたり、エリア間競争の中で他国に職を奪われる可能性から将来不安が高まったりしているので消費性向が抑制されています。

 

その結果として、技術進歩などによって供給量が増えるほどには需要が増えずグローバルにデフレ化が進んでいます。

 
 

こうした世界的な供給力拡大(デフレ化)の中で、アメリカ・イギリスは自国経済を活性化させて供給力増加の恩恵を受けてきました。これらの国は自国の生産力以上に消費するため貿易収支・経常収支がいずれも大幅な赤字になります。

 

経常収支が赤字の国の特徴は金融業(資本家)の政治力が強く、資産価格を高くしようという力が常に働いていることです。

 

証券理論によれば、資産価格はキャッシュフロー金利で割り引いた現在価値の合計になりますので、資産価格を引き上げるには、①マイルドなインフレ下で、②生産量を増やし、③低金利を維持すれば良いことになります。

 

      資産価格=Σキャッシュフロー÷割引率≒Σ(生産量×物価)÷(1+金利

より、生産量・物価が増加し、金利が低下すれば資産価格は上昇する。

 

マクロ経済政策の効果などで経済が盛り上がってきたときに国際協調や口先介入などによって、自国通貨を高めに誘導できれば、景気拡大(生産量の増加)を維持しつつ、物価は抑制(為替高効果)し、低金利も維持できることになります。

 

こうしたやり方は高い雇用を維持しつつ株価も上がりますので、これまでは政権への支持率が上げる有効な手段として大統領選挙が近づいたときにアメリカの時の政権がとる典型的な政策運営となっていました。

 

しかし、マクロでみると失業率は低く所得も増加していてもミクロでみた個々の人たちが幸せになっているとは限りません。むしろ、通貨高で製造業が海外へ生産を移す(または海外メーカーに価格競争で負けて国内工場を閉鎖する)ため、製造業の雇用は劇的に減少し、小売店の店員やヘルスケア(介護職等)といった低賃金雇用だらけになっています。

 

つまり、技術進歩の加速で技術の恩恵を受けている人と普通の人の乖離が大きくなっているうえに、普通の人たちは通貨が割安な国(中国・韓国・台湾などアジア諸国や新たに市場経済に加わりつつある東欧諸国など)に職を奪われて低賃金の職に移らざるを得なくなっているのです。

 

これまでは、投資の大衆化が進んだことで株のキャピタルゲインの恩恵が幅広く行き渡ってきましたが、リーマンショック後は株価上昇率が鈍ったために、低賃金への不満が高まりやすくなっているものと思われます。

 

イギリスのEU離脱派勝利は、これら普通の人たち(労働者)の資本家に対する反乱と見なすのが正しいように思います。また、アメリカでのトランプ現象は、中国・メキシコなどに職を奪われた米国労働者が米国に職を取り戻してくれる(であろう)トランプ候補を支持した動きと思われます。

 

なお、米国民主党政権が日本の為替介入に反対しているのは、ドル高を是正し、製造業の国外流出を抑えることでトランプ候補を支持してきた国内労働者の指示を取り戻すためだと思われます。

 

日本ではイギリスのEU離脱はイギリス国民の誤った決断のように報じられていますが、今後の政策運営を間違えなければ、ポンド安がイギリス国内の製造業の競争力をサポートし、健全な国内産業育成に繋がる可能性が高いと思います。(これまでの金融至上主義的な経済運営が異常という考え方もできます。)

 

日本ではテレビ等でよくEU離脱後のイギリス経済の先行きを心配するコメントが聞かれます。しかし、むしろ心配すべきはイギリス経済の先行きではなく、建前である「通貨安競争は避けなければいけない」という言葉を鵜呑みにしてアメリカ政権の言いなりで介入を見送り、結果的に円独歩高の状態を放置して日本経済の長期的弱体化を招いている日本の政策運営の方だと思います。