「財政赤字の本質」論にみる日本経済低迷の背景
2016年6月16日の日本経済新聞の大機小機に「政府債務の本質」というコラムが掲載された。
この程度の内容で「本質」として大手新聞に掲載されるのが日本経済の長期低迷をもたらした「本質」だと思えてならない。
コラムの要旨は以下のとおりである。
(1)国債は個々の所有者にとって財産である。
(2)従って、国債が税で支えられない残高になったり、政府が本気で税で支えていないという事実が多数の目に明らかになったときは、早めに他人に転売して自分は逃げ切ろうとする。
一見もっともらしく、筋がとおっているようにみえる。
しかし、すでに10年以上も同じようなことが言われ続けているのに、どうして国債の暴落が起きていないのだろうか。
国債の暴落が起きないといっているのではない。現時点で国債の暴落が起きていない事実を説明するメカニズムを考慮せず、物事の一方だけに光をあてて「本質」といっている愚かしさを指摘しているのである。その愚かな理論をもって政策が運営されていることが問題なのである。
長くなるので詳しくは書かないが、ポイントは以下の2点である。
(1)経常収支が黒字となっている地域経済では、通貨(つまり円)への需要が供給を上回っている。経済主体は常に円での資金運用ニーズを有しているため、円は常に切り上げ圧力にさらされているし、。
(2)インフレ圧力の低い社会では、長期金利が上昇した場合にデフレ圧力が高まることに対応して金融は大幅に緩和される。通常であれば短期金利を低下させることになるが、現在のようなゼロ金利下では、中央銀行が長期債を購入して量的緩和を行うことになる。これが長期金利の上昇を抑える(低下させる)ことになる。
ここで、仮に山河氏(前述のコラムの作者)の主張するとおり、信用の崩壊が起きるとしよう。
従って、円の信用崩壊による価値低下からも逃げるため、外貨通貨建ての資産を志向するようになるはずである。その場合、当然のことながら円安が起きる。
円安になれば、(現在の経済構造が大きく変化していなければ)輸出ドライブがかかって、経常収支の黒字は拡大する。そうすると、実需の円買いが起きるので(一時的に円安に進んだとしても)必ずもとにもどってくる。少なくとも、経済が破綻するまで信用の崩壊が進むとは考えにくい。
また、ポイントの(2)で指摘したように、インフレ圧力が低ければ、信用の崩壊が起きたときに、日本銀行は金融を大幅に緩和して、長期債の買取を行うこともできる。(政策当局が賢ければの前提付であるが。)
他方、経済構造が変化して生産能力が低下し、通貨安でも輸出ドライブをかけられないようになると、国債(というより地域経済への)信用崩壊は簡単に起きやすくなる。