ndtm50の日記

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金融危機になるリスクを考える(3) 中国の金融危機について

長期に亘る高い経済成長が続いた後、夏場に急激な株価下落があったことから、中国経済が危ないという人がたくさんいます。

現在の中国経済は事実上世界No.1(購買力平価ベースのGDPアメリカを抜いて既に世界最大)なので、中国経済の状況を正確に判断することはとても重要だと思います。そこで、今回は中国経済の問題点や危機に陥るリスクについて詳しく考えてみたいと思います。

なお、結論から先に言うと、私は現在の中国経済が通常レベルを超えてリスクが高いということはないと思います。通常の景気停滞期にあり、政策対応が遅れているため、それが長期に亘れば危機に陥るリスクは一応意識しておいた方が良いかな、という程度です。


まずは、中国という”国”としてのリスク(ソブリン・リスク)を考えます。

12/15のブログで説明したとおり、国家には通貨発行権と徴税権がありますから、自国通貨建ての債務返済に窮することはありません。通貨を発行していくらでも返済することができます。

国家が返済できなくなるのは、外貨債務(主に基軸通貨)の返済において、調達不能になるケースです。従って、ソブリン危機とは通貨危機と同義といえます。


通貨危機ソブリン危機)は、自国通貨を外貨に替えようにも、通貨下落の悪影響からできなくなることです。

通貨危機が起こる典型的なパターンは、

数年間以上にわたって「景気を良好な水準」が続く中、政策的に「割高な水準に通貨を安定」させていたため、多くの企業(民間および国営)が高騰した自国通貨建て借り入れを避けて「外貨建て借り入れ」を増やしている場合です。

このような状況下で経済の先行き不安など(大抵の場合はインフレ懸念)から通貨が売られ始めると、①外貨建て債務の実質価値が増大による国内企業の信用力毀損リスク、および ②輸入インフレのリスクが高まるため、通貨当局は自国通貨の買い入れ介入(通貨防衛)に追い込まれます。

しかし、もともと通貨は割高な水準にある(従って貿易競争力が低下して貿易収支が悪化している)ため、資金逃避は止まらず、外貨準備が急激に減少していきます。

外貨準備の減少が止まらなくなると投資家の不安が高まるため、ますます資本逃避が加速していきます。

こうなると、
通貨下落→防衛のための金利引き上げ→国内景気の悪化→業績不振及び外貨建て債務の拡大による企業の信用不安増大→資本逃避が拡大→通貨下落
といったスパイラルが起き、通貨危機ソブリン危機に至ります。

但し、国内に強力な産業(製造業)がある場合は、通貨が下落し始めた段階で輸出が増大し、貿易収支の黒字化・貿易決済金の国内流入が拡大しますので、初期の段階でスパイラルは回避され、ソブリン危機へ至るリスクは低くなります。


つまり、ソブリン危機の条件としては、以下の3点が挙げられます。

①長期に亘る通貨の安定で国内企業の外貨建て債務が増大している
②通貨が下落しても輸出が増加しにくい国内経済体質である
③輸入品への依存度が高く、輸入インフレ(為替安によるインフレ)を受けやすい状況にある


ここで、現在の中国経済を考えていますと、
長期に亘って事実上のドルペッグ政策を続けていましたが、資本取引の制限や多額の貿易黒字(=多額の貿易代金の国内流入)から、国内企業の外貨建て債務が高レベルになっている可能性は低いと思います。
(私が中国の統計で確認したわけではありません。状況から判断しているだけです)

また、輸出依存性の高い体質ですから、通貨が下落すれば輸出ドライブがかかって、むしろ貿易摩擦が再燃する可能性の方が高いと思います。

さらに、経済成長率の鈍化とともにインフレ率は大きく低下して、デフレのリスクが懸念される事態になっています。

これらの点から、中国がソブリン危機を起こす可能性は極めて低いといえます。


それでは、中国の問題点、リスクはな何でしょうか。

これまで、何度か指摘していますが、現在の中国経済の問題は通常の景気停滞期に入っていることだと思います。

リーマンショック後に実施された財政支出が大幅に削減され、経済が減速・インフレ率が低下したにも関わらず、それを放置したことから実質金利名目金利-インフレ率)が上昇し、さらなる景気の停滞を起こしています。

さらに、中国自身の停滞が周辺国の経済の停滞を招き、スパイラル的に経済成長が鈍ってしまいました。

これは、1990年代の日本と周辺国との関係に似ていると思います。
(日本はこれを放置し続けたため、日本の金融危機アジア通貨危機を起こしてしまいました。)

現在は通常の景気低迷期ですから、金融を大幅に緩和し景気刺激すれば景気は反転し、拡大期に転換すると思われます。

他方、政策対応をせずにそのまま放置すれば、景気の低迷が続き、それがある時点を越えると、企業が体力を使い果たして信用危機に発展します。

12/15のブログで説明したように、信用危機は景気後退が続くことで売上不振で赤字から抜けられなくなる企業が多くなり、投資家がリスク回避のために資金を引き上げることで発生する危機です。日本は1991年にバブルが崩壊した後、約6年間の景気低迷期が続いたことで1997年に信用危機が起きました。

中国でも信用危機が発生するリスクはありますが、少なくとも5年ぐらいは政策ミスを犯すことが前提になると思います。

もっとも、これまでの政策対応の遅れによる経済の不振を「ニューノーマル」という自然現象のような言葉でごまかしていることから、政策ミスが続く可能性は、一応意識しておく必要があると思います。

これが、現在の中国経済の状況と考えます。

すぐに金融危機が起こるリスクは極めて低いが、世界経済におけるプレゼンスが高いので、景気後退が続けば要注意ということです。