アメリカの相場 8年周期の背景
経済というものは、基本的に前回説明した循環メカニズムで動いています。
生産が拡大し始めると、循環メカニズムが正回転しますので、どんどん景気は良くなります。
生産が縮小し始めると、循環メカニズムが弱くなっていきますので、景気はどんどん悪くなります。
景気循環などという言葉から、景気は良くなったり悪くなったりするものと思っている人が多いですが、景気は良くなったり悪くなったりしません。良くしたり、悪くしたりしているのです。
言い換えると、力強く作用している経済の循環メカニズムが自然に悪くなることはなく、政策によって悪くしているのです。(大きな外部環境の変化によることもあるが、まれ。)
インフレが起きても循環メカニズムは止まりませんから、何もしなければ需要の拡大とインフレは加速してしまいます。
しかし実際には、インフレが加速すると困るので政策的に(意図的に)ブレーキを踏みます。
(金融引き締めや増税、財政縮小など)
エコノミストと呼ばれる中にも理解していない人が多いですが、これが最も基本的(かつ、最も重要)な経済理論です。
さて、景気の変動は人為的に起こされるということを前提に考えると、アメリカの相場が8年周期で動いていることが理解できます。
政策は政府が決定し、行うものです。
民主主義のもとでは、政府は、選挙に勝つことを最大の目標として政策運営を行います。
選挙に勝つための定番は、パンとサーカスです。
ここで言う「パン」とは、雇用の拡大・所得の増加を通じて、国民生活を豊かにすることです。つまり、選挙で支持を獲得するためには、景気を拡大させることが重要です。
米国では、4年に1回大統領選挙があり、一人2期までと決まっています。(最大8年まで)
以前は1期で終わる大統領が多かったのですが、過去3人はいずれも2期目まで勤めています。これは、現役大統領として選挙を戦う際の手法が確立され、非常に有利に選挙選を戦えるようになったためと言われています。
2期目の選挙戦を有利に戦うための手法は以下のとおりです。
1期目が始まると、経済政策運営は、次の大統領選挙で勝つことだけを目標に行います。
具体的には、1期目の前半(2年間程度)は、あえて経済を低迷させます。
そして、前半を過ぎたあたりから景気刺激的な政策(金融緩和・財政支出増、減税等)に切り替えます。そして、緩やかに景気が回復する中で選挙戦を戦うようにします。その際、前半の景気不振は前政権の責任とし、景気回復へ転換させた功績をアピールします。
めでたく大統領選挙で勝利して2期目に入った場合は、レームダック化を防ぐために景気を高水準に保って政権支持率を高い水準でキープさせます。景気を高水準に保つため、為替をドル高に誘導してインフレ率を抑制しつつ、金融環境を緩和的な状況に保ちます。
しかし、景気が回復に転じて4~5年経過すると次第にインフレ圧力を無視できなくなり、金融引き締めの速度が加速していきます。
そして、2期目の終盤に景気が悪化に転じ、それまで急騰していた資産価格(株・不動産)が急落します。
実際に、1990年代以降の米国大統領任期と相場の変動をみると以下のとおりになっています。
- ITバブル崩壊(2000年末ピーク)
- リーマンショック(2008年9月)
- ???(2016年秋?)
このようにして、アメリカの株・不動産相場は8年周期で動いています。今後も、国民性によほど大きな変化が生じない限り、8年周期が続く可能性が高いです。
なお、現在はまだ景気・相場の成熟度が低く、需要不足は金融引き締めを遅らせることで対応可能であることから、株・不動産価格の長期トレンド転換には至らないと考えています。
アメリカ金融市場の8年周期をみれば、そのタイミングは2016年の後半以降の可能性が高いと思います。