ndtm50の日記

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黒田日銀の金融政策に関する2つの特徴

9/10に日銀の金融政策について書いたので、ついでに現在の黒田日銀の金融政策の特徴についてもコメントしておこうと思います。


黒田日銀の特徴は、①too late & too big (遅すぎて大きすぎる)、②アナウンスメント効果の考え方・使い方が偏っていることです。


1990年代以降、日銀の政策はtoo late & too small (遅すぎる上に小さすぎる)と言われ続けてきました。金融緩和の判断が送れ、市場に催促されながら、しかも小さすぎて効果がなく、追加緩和に追い込まれることもしばしばありました。また、日銀法改正で独立性を高めてからは、効果がなくても無視して傷口を広げる(デフレスパイラルに陥る)こともありました。


白川前総裁から引きついた黒田総裁は、就任直後の2013年4月4日に金融緩和を実施しました。従って、そのときにtoo late になったのは前総裁の責任であり、またその遅れをカバーするために too big になった面はあると思います。


しかし、2014年秋の追加緩和では、黒田日銀の特徴が大きく表われています。


そのときの経済状況は、2014年4月1日に消費税率が引き上げられ、駆け込みの反動もあって消費・生産が大きく落ち込んだ後の景気のリカバリーがどうなるかがポイントでした。

当初は3ヶ月程度での改善を見込むエコノミストが大半でしたが、7月末に発表された6月の統計(生産・消費・受注)をみて、私は愕然としました。生産が回復の兆しを見せず、生産減少が消費・投資といった最終需要に負の影響を与え、ミニ・リセッションに陥る気配を感じたからです。

8月末に発表された7月の統計でも生産回復の兆しはなく、日本経済は非常にリスクの高い状況との判断に至りました。ここで、黒田総裁の発言どおり「(物価上昇が果たせないと判断した場合には)躊躇なく追加緩和を行う」のであれば、9月4日の金融政策決定会合での追加緩和が当然であったと思います。(私はその時点で追加緩和を予想し、円売りポジションを積み上げました)


しかし、そこから黒田総裁は金融緩和に後ろ向きなコメントを出し続け、市場の期待が萎んだ10月31日に量的緩和の大幅積み上げ決定しました。


9月4日に緩和を実行していれば、それほど大きな金融緩和の拡大は必要なかったと思います。9月~11月の3ヶ月あれば景気の停滞からの脱却が明確になり、2014年末の消費税率上げ(8%⇒10%)の判断も違っていたのではないでしょうか。

しかし、黒田日銀は金融緩和の実行を10月まで遅らせた上で、サプライズと言われるように金融緩和の程度(資産購入の量を拡大)を巨大なものにしています。こうした10月31日の金融政策変更の特徴(too late & too big)は、黒田日銀総裁の金融政策への考え方(アナウンスメント効果への偏った考え方)が反映されたものであり、今後も継続されるであろうというのが私の判断です。

なお、それまでの日銀のtoo late & too small に比べると too late & too big は、効果を薄める要素のtoo lateと効果を高める要素のtoo bigが相殺されるため、これまではそこそこ良い結果を生んでいたと思います。

しかし今後は、大きな金融緩和(量的緩和の積み上げ)を重ねたため、①次の緩和が小幅だと小さすぎると見なされて効果が薄まること、②市場での日銀の存在感が高まりすぎて更なる緩和の弊害が意識されるようになったことに注意が必要です。

次の金融緩和をためらうことでtoo lateとなり、かつ、その遅れのマイナス面を補うためにbigにせざるをえないとのマイナスのスパイラルに陥るリスクが高まりつつあります。これは、日銀の金融緩和の理解を難しくし、市場の振れ幅を大きくする要因になります。


黒田日銀のもう一つの特徴はアナウンスメント効果への偏った考え方です。

新聞報道によれば、黒田日銀は、2014年10月31日の金融緩和の際、市場のサプライズで効果を高めるために金融緩和をすぐには実行せずに、否定的なコメントで市場での金融緩和の期待が萎ませた上で実施しています。


金融政策変更が与える市場のサプライズには「良いサプライズ」と「悪いサプライズ」の2種類あります。

「良いサプライズ」は、先行きの経済のリスクに対して市場の先手を打って政策対応を行う場合の市場の驚きです。この場合、リスク減少により市場の振れは小さく、政策の効果に対しても市場は素直に反応します。

「悪いサプライズ」は、経済リスクが発生しているのに政策対応が送れ、市場が悲観的になったとき(政策対応を期待しなくなったとき)に、突然、政策対応を行う場合です。この場合、市場の予想に反しているという意味ではサプライズとも言えますが、単に投資家をだましているだけとも言えると思います。しかも、政策への反応も大きくなるため、一見、政策がうまくいったように見えることがやっかいです。


「良いサプライズ」と「悪いサプライズ」では反応のメカニズムは大きくことなります。

「良いサプライズ」では、先行きへの期待から新たなリスクポジションを積み上げる投資家の動きで市場が動くため、緩やか、かつ長期的な動きになります。

「悪いサプライズ」の場合は、悲観的な予想から積み上げた投資家がそのポジションを解消する動きで市場が動くことになります。そうしたポジションは放置すると損失が拡大するため、急いで解消する必要があり、また、相場の水準に関係なくポジション解消に迫られる投資家が存在するため、相場の動きは急激かつ大きなものになります。そして、そうしたポジションの解消が終わると、相場は反動で戻されるため、政策効果も長続きしません。(むしろ相場の反動でマイナスの影響が残る場合さえあります)

以上の説明から分かると思いますが、黒田日銀が目指すアナウンスメント効果は「悪いサプライズ」の利用です。結果から見れば、「躊躇なく追加緩和を行う」との言葉も守られていません。

投資家をだまして政策効果を演出していると評価することもできると思います。しかし、黒田総裁及び政府関係者がこれをポジティブに捉えていることから、黒田日銀はこれからも投資家をだましつづけると思います。

蛇足ながら、グリーンスパンFRB議長が最も評価されていた時期の金融政策はファイン・チューニングと呼ばれ、先行きのリスクに対して、前もって小幅に政策対応を行い、経済の変動を抑えていました。
(その結果、経済の先行きに過度な楽観論が広がりバブルに繋がっていくという皮肉な結果をもたらしました)


これまで説明したように黒田日銀の金融政策には問題がいろいろありますが、too late & too small だった以前の日銀と比べればかなりまともな政策といえます。ただ、①今後も市場の振れ幅が大きいことを予想しながらポジションメイクをすること、②黒田総裁のコメントを鵜呑みにしないことが必要と思います。