ndtm50の日記

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豪ドルが70円台を窺い、新興国通貨が引き続き軟調な中、為替理論を考える

 8月中旬から為替が大きく変動しています。

 ドル円だけをみていると動きも落ち着きつつあるようにみえますが、豪ドル円はついに70円台がみえる水準まできましたし、新興国通貨は売られ続けています。

 そこで、為替について考えてみたいと思います。今回は、為替理論の代表である購買力平価についての私の考え方です。

 購買力平価を本などで調べると難しい定義が書かれていますが、一言で言うと、同じものが同じ値段になる為替レートのことです。

 二国間で同じ物の値段が異なれば、商品を他国より安く製造(供給)できるということになり、輸出が促進されて、それに伴う決済代金も増加します。

 貿易で稼いだ外貨はいずれ本国に還流するはずと考えれば、その際に自国通貨の買い需要が発生するため、為替レートは購買力平価に近づきます。

 ここで、一つ目のポイントは、貿易は何でもできるわけではないことです。例えば、生鮮食品等の保存のきかないもの、住宅・店舗等の不動産、クリーニング等のサービスは国際間でやり取りすることは極めて困難なため、これらが為替に与える影響はほとんどありません。

※最近は冷蔵の航空機輸送等で生鮮食品の輸出も行われているようですが、輸送コストが大きく、為替レートに与える影響は全くありません。

 つまり、購買力平価を為替の決定理論として考える場合は、貿易財で比較したものを使用する必要があります。(両国の経済力の比較等に使われる場合の購買力平価は、通常消費者物価を用いて算出されますが、為替を考える際に必要な購買力平価とは異なりますので注意してください)

 次に二つ目のポイントですが、8/25のブログで簡単に触れたように、購買力平価に従って考えると、インフレ国の通貨は安くなることです。(これは新聞等のマーケット欄の解説と真逆です)

 それは、インフレによってその国の物価が上昇(生産コストが上昇)した場合、割安になった他国の商品が輸出で流入し、その代金の支払いのために自国通貨を外国通貨へ替える必要があるため、自国通貨売り外国通貨売りの需要が発生して、その国の通貨は売られて安くなるためです。


 さて、このように修正メカニズムが内包されている強力な為替理論である貿易財での購買力平価ですが、為替の専門家の解説でこれに触れているものをほとんど見たことがありません。

 その理由は、修正メカニズムに3つのタイムラグがあるため、実際の為替の動きは短期的に乖離することが多いためです。これがポイントその3です。


3つのタイムラグは以下のとおりです。

タイムラグ①
 初めのタイムラグは、貿易を開始するまでの準備・手続き等の時間です。価格面で優位になったとしても、実際の貿易を開始するには輸出相手国の言語にあわせたパッケージ対応、通関手続き等の準備が必要です。

タイムラグ②
 生産能力に余裕がない場合は、設備投資して生産能力を拡大する時間が必要です。これに要する時間は状況によって大きく異なります。経済が強気に傾いている場合は、すぐに投資を判断して、工事を早めさせますのでタイムラグが小さくなる傾向があります。他方、現在の日本のように経営者が先行き弱気だと、投資決定までに時間を要するため、生産能力が拡大されるまでの時間は長くなる傾向があります。

タイムラグ③
 輸出が拡大してその分の決済代金を受け取ったとしても、すぐに受け取った外貨を自国通貨に替えるとは限りません。当初は、マーケティング費用等もありますので外貨のままにしておくことが多いと思います。金額が大きくなって外貨での使用予定額を大きく超過してから、自国へ還流されることになることが多いため、決済代金を受け取ってから自国通貨に替えることで外国為替の水準に影響を与えるまでにタイムラグがあります。

 これら3つのタイムラグがあるため、日々多額の売買を行っている外国為替のプロと言われる人たちは、ほとんど購買力平価に注意を払いません。

 しかし、それは我々一般投資家が注意を払わなくて良いということにはなりません。むしろ、我々は十分な注意を払うべきと思っています。

 それは、タイムラグによって修正メカニズムの起動が遅れれば遅れるほど、それまでの調整圧力が累積して大きな修正力として効果が働き、長期的には必ず購買力平価に沿った動きになることが確認されているからです。

本日は以上です。購買力平価の3つのポイントだけ理解してください。

ポイント1)
 貿易財だけを使った購買力平価を考える
ポイント2)
 インフレ国(通常金利の高い国)の通貨は売られる
ポイント3)
 タイムラグがあり短期的に乖離するが、調整圧力は累積するので、長期的には為替は必ず購買力平価に沿った動きになる

次回以降、続いて説明していきたいと思っています。