ndtm50の日記

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アベノミクスの第三の矢は間違っている

本日は、潜在成長率について考えます。

まず、潜在成長率の定義について確認してみると、辞書には以下の説明が書かれています。
「インフレやデフレになることなく、中長期にわたって持続できる潜在的国内総生産(GDP)の伸び率」

インフレやデフレになることなく、となっていますが、これは結構難しいことで、財政金融政策(経済政策)をうまくやらないとインフレやデフレを回避することはできません。

従って、以下の表現のほうが正しいと思います。
「経済政策をうまく運営してインフレやデフレにならないようにした場合に、中長期にわたって実現できる国内総生産の伸び率」

なお、インフレやデフレにならないように経済政策を運営するとは、景気が低迷しそうなときには予め景気刺激策(金融緩和、財政支出)をとり、景気が過熱してインフレリスクが高まった際には予防的に景気引き締め策(金融引き締め、財政削減)をとることで、常に経済が安定しつつ良好な状態を保つことです。

日本の失われた20年間のように、経済政策がうまく運営されず、経済が良好でなかった時期には、実際のGDP伸び率と潜在成長率の乖離が大きく、潜在成長率の試算は非常に難しいことを、先に指摘しておきます。この点を理解できていない人たち(特に日本銀行)の試算結果を鵜呑みにするのは間違いの元になります。


さて、潜在成長率は実際にはどのようにして決まるのでしょうか。様々な理論はありますが、主流な考え方は以下のとおりです。

「生産活動に必要な3つの要素(労働力、資本〔設備〕、生産性〔生産効率〕)の投入量によって生産水準が決まる」との仮説を基に生産関数を試算し、その3つの生産要素がフルに利用された場合の生産量(生産能力)を計算する。

試算された生産能力の推移から計算される1年間の生産能力の伸び率が潜在成長率となります。



それでは、潜在成長率を高めるにはどのような方法があるでしょうか。生産能力が生産の3要素で決定するとすれば、それらを増やす(高める)ことで潜在成長率を高めることができます。

①労働投入を増やす
 ・労働する人を増やす-女性の労働参加、子供を作って国民を増やす、海外から移民を受け入れる
 ・一人の労働時間を増やす-休み(祝日)を減らす、1日の労働時間を増やす
②資本を増やす
 ・設備投資を行い、資本蓄積を進める
③生産性を上げる
 ・技術革新を起こして生産性をあげる

これらを行えば、潜在成長率は確実に上がります。

日本の政府官僚や日銀職員は、少子高齢化が進む中で労働投入の伸びが見込めないこと、過去数十年間生産性の向上が停滞していることを理由に潜在成長率がゼロ近傍まで低下しているとしていますがこれは明確な誤りです。間違った政策を継続してこれまでのトレンドが継続した場合に成長が見込めないことを計算しているだけです。(これはある意味当然のことです)


しかし、生産要素を増やせば生産能力が高まる(=潜在成長率が上昇する)ことはあきらかです。不確実性の高い労働投入や生産性向上(イノベーション)などに頼らなくても、設備投資を大幅に増やせば、潜在成長率は確実に上がります。そして、設備投資を活発に行う中でイノベーションも同時に発生する可能性が高いのです。(少なくとも過去はそうでした)

従って、それを実行する意思があれば、潜在成長率を高めることはある意味単純な話です。(政府における正確な理解と政策実行に対する国民の支持が必要)


日本経済に望ましい政策を考える際には、このことを抑える必要があると考えています。
(具体的には、次回に詳しく説明したいと思います。)

なお、現在の日本の成長戦略はやや的がはずれています。内閣府のHPに記載されたアベノミクス第三の矢、成長戦略の説明は以下のとおりになっています。
・民間需要を持続的に生み出し、経済を値から強い成長軌道に乗せていく
・投資によって生産性を高め、雇用や報酬という果実を広く国民生活に浸透させる

民間需要を持続的に生み出すのは潜在成長率を高める成長戦略の役割ではありません。
投資の役割は潜在成長率を高めることであり、雇用や報酬という果実を広く国民生活に浸透させることではありません。

これらの目的意識の相違がちぐはぐな政策となり、成長戦略を描けなくしているのです。


また、通常の潜在成長率の分析では、過去のデータを用いて推計された生産関数のパラメータを使って、労働投入、資本蓄積、生産性の向上の予測値から算出されることが多いですが、その予測値は過去のトレンドから推計すれます。そのため以下の問題があり、いずれも過小推計となることが多いです。

①生産関数は、実際の生産量ではなく生産能力を算出する関数ですが、過去のデータとして残っているのは実績のみなので、失われた20年間のように生産能力に対して著しく低い実績の期間が長いと正確なパラメータが算出できません。

②将来の生産能力を算出するためには、3要素の将来値を推計する必要がありますが、通常過去のトレンドから推計されるため、過去長い間景気の低迷が続いていた場合は、3要素(特に資本蓄積と生産性向上)の伸びを低く推計することになります。

本日は以上です。