ndtm50の日記

ブログ5年目に突入!

経済分析をもとにした少し長い相場の話

ゴールデンウィークに個人的に相場の話をする機会がありました。
 
ヤマトの配達員に象徴されるように雇用不足が高まっているので、今後はインフレ率が高まるのではないかと話したら、インフレ率が上がると企業収益も良くなるので株価も上がるだろうと、うれしそうに語る人が多かったのが気になりました。
 
その場では、私のアドバイスを聞くような雰囲気ではなかったのだスルーしたのですが、同じような考えの方が多いことを考えるとこの場で注意を喚起しておいた方がよいと思い、最近の考えをまとめておくことにしました。
 
今後インフレ率が高まった場合に相場が大荒れになる可能性が高く、今から準備を開始する必要があると思っているからです。
 
 
(1)景気の現状について
 
まず、相場予測の前提となる景気認識ですが、先日、景気を4局面に分けた場合の「方向:拡大・水準:需要超過」の局面へ移行しつつあると書きました。(下部の②の局面)
 
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※ 右肩上がりの大きな矢印が「供給力(生産能力)」、波線が実際の「需要」です。
②の局面は、波線が上を向いているので「方向:拡大」、そして波線が矢印より上にあるので「水準」需要超過」となります。
 

すでに消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は3か月連続のプラスで前年比+0.2%(20173月)となっていますが、需要超過が拡大すればインフレ率の上昇要因になります。
 
一般的なインフレ率の見通しでは、日本銀行の見通し(消費者物価指数[生鮮食品を除く総合]上昇率)で2017年度+0.6+1.6%、2018年度+0.91.9%となっており、日銀以外の見通しでももう少し緩やかな回復を見込む人が多いように思います。
 
しかし、この見通しに確たる根拠があるとは思えず、今回のアベノミクス景気における日本経済の回復力の弱さから、(回復方向にあるものの)力強さに欠ける動きを予想しているものと思います。
 
今後の景気のリスクについても経済や物価は下方リスクがあるとされており、それを考慮して「物価は当分上がらない、従って日銀の金融緩和も半永久的に続く。」というのが一般的な見方のように思えます。
 
しかし、私は現在の強力な金融緩和政策を前提にすれば、景気も物価もリスクは上方にあると考えています。
 
その理由を説明するには、今回の景気回復(及び物価上昇)が非常に弱いものにとどまっている理由の分析が重要となります。
 
 
(2)アベノミクス景気が弱く物価が上がらない理由
 
まず一般論から説明したいと思います。
 
景気が後退局面から回復に転じた直後の局面(上の図の①、方向:拡大、水準:需要不足)の回復力を決める大きな要素に『先行きに対する見方』があります。
 
それを理解するためには、①先行き楽観的な社会と、②先行き不安な社会を比較して、景気回復の動きをみるとわかりやすいと思います。
 
(ア)  先行きに楽観的な社会

一時的な景気不振で需要不足に陥っても企業経営者はいずれ需要超過になると確信しています。そのため、景気が底を打ち回復局面に入ると(供給不足の局面でも)積極的に設備投資を行います、

その結果、景気の回復スピードは速くなります。(設備投資のための需要が景気を押し上げるため)

また、設備投資は供給力を拡大するため、景気の早い段階で供給力も拡大に転じます。

(イ)  先行き不安な社会

先行き不安な社会では、企業経営者は常に設備の稼働率低下に伴う赤字化・倒産のリスクを意識しています。そのため、景気が底打ちして回復に転じても需要不足の状況(設備が余っている状態)では更新や省力化目的以上の投資(能力増強)にはなかなか踏み切りません。

その結果、外部環境の押し上げがない限り景気回復スピードは緩慢なものになります。


このように、景気底打ち後の回復スピードは「先行きへの見通し」によって大きな違いが顕れます。
 
バブル崩壊後の失われた20数年やリーマンショック後の失政により大企業の倒産も相次いだ結果として将来への不安が極度に高まっているのが日本の社会です。生き残りを最優先に考える企業経営者が増えていると考えるのが妥当だと思います。
(一部の超優良企業は除きます)
 
なお、先行き不安に陥る要因として少子高齢化などの構造問題を挙げる人が多いようですが、大半の経営者はそれほど未来予測して投資計画を立てているわけではなく過去の経験則をもとにしているケースの方がはるかに多いと思います。
 
従って、アベノミクス景気が期間が長く回復力が鈍い主因は、アベノミクスの手法(大胆な金融政策)が悪いことや構造問題によるものではなく、過去の政策ミスの結果と考えるべきと思います。
(以前から指摘しているように追加の金融緩和が遅れたことも景気回復が鈍い要因の一つですが、今回の説明には関係ないので敢えて無視します。)
 
なお、これは過去のデータ分析などからロジカルに求めた結論というより筆者の経験とカンによるものです。
 
余談になりますが、複雑な景気や相場見通しにはこのようなカンに頼るべきところも多く、カンを養うことが重要と思います。大抵のエコノミストがカンを養うことをせず大した根拠もない(屁)理屈で前提を置いていることが、見通しを誤ることが多い原因と思います。
 
 
(3)景気の第②局面における展開
 
先行きの見方によって回復の第①局面での回復スピードに大きな差ができることを説明しましたが、この違いは第②局面(需要超過)においてさらに大きな差を生みます。
 
これまでの説明のように、二つの社会の違いは第①局面(方向:拡大、水準:需要不足)において高水準の設備投資が行われているかどうかにあります。
 
「先行き楽観」の社会では需要の増加とともに供給の拡大が伴ってきますので、適度に需要をコントロールできれば(需要超過幅が一定にとどまり)息の長い景気拡大になります。
(実際には先行き楽観になりすぎて需要が急拡大した場合に短期間の景気拡大に終わるケースも多いです。)
 
一方、「先行き不安」の社会では需要の増加に対して(投資が行われていないため)供給の拡大がありません。さらに、供給不足(設備不足)に直面して急に投資を増やそうとするため、需要の拡大が加速し始めます。
 
結果として、景気の局面が変わったあたりから、景気回復が力強くなり、供給不足の度合いが加速することになります。
 
供給不足はインフレ要因となります。経済のグローバル化が進み、輸入価格などによってインフレ率が大きく影響を受けるように構造が変化しているので、(需給要因といった)国内要因だけでどの程度インフレが加速するかを予測するのは困難ですが、これまで説明したようなメカニズムが働いていることを意識していくことは大切と思います。
 
 
(4)景気回復がしっかりした後
 
さて、今後景気回復力が高まった後の展開をどのように予想すべきでしょうか。
 
冒頭で紹介したの個人的エピソードのとおり一般的には景気回復力が高まってインフレ率が2%に近づくことはポジティブに捉えられているように思います。
 
しかし、先行き不安の高い日本経済においては、需要超過が拡大する場合、供給の伸びが非常に緩慢であることから、長期的に需給ギャップが解消する見通しは立たなくなります。
 
そうした状況下でインフレ率がターゲットの2%を超えていくと、金融政策の変更が意識される場面が必ず出てきます。現在の日本市場は日銀のマイナス金利ETFJ-REIT買いで支えられている部分が大きいことから、資産価格の大幅な調整(株・不動産価格の下落)が起きることが予想されます。
 
繰り返しになりますが、こうした状況に陥っているのは過去20数年間の政策ミスの結果であって、小手先の政策変更で何とかできるものではありません。従って、(少なくとも一時的な)資産価格の大幅な調整は不可避と思います。
 
ただし、ここで2つの対応が考えられます。
(歴史上同じような状況に陥ったときの対応は大別して以下の2通りに分けられます。)
 
()これまで大胆な金融緩和を続けてきたことの結果として起きた資産価格の調整(下落)なので不可避かつ対応は不可能との考え方に基づき。マクロ経済政策面での対応は見送られる。

(イ)調整が深まった場合の経済への打撃を懸念して、過去にも増して強い財政金融政策を打ち景気を支える。
 
日本では過去20数年間、資産価格の低迷はバブル経済崩壊によるもので構造改革をしないと解決しないとの考えが支配的になり、()の政策対応がとられてきました。その結果、これまで繰り返し説明したように経済低迷とマインドの悪化が続いてきたのです。
 
これまでと同様に今回も()の政策対応がとられる場合にはアベノミクスで景気の山が(過去25年間の中では比較的)高くなった反動で次の景気の谷はかつてなく深いものとなることが予想されます。そうなると先行き不安が一段と高まるため、投資判断の慎重化で日本経済の潜在成長率はさらに低下し、経済低迷が長期間続くことが懸念されます。
 
一方、()の政策がとられて景気の大幅な悪化を防ぐことができれば、アベノミクスによる長期の景気回復と合わせて日本経済の先行き不安は多少和らぎ、次の回復局面では企業経営者の投資判断が積極的になることから、潜在成長率の改善が期待できるようになると思います。
 

(5)結論
 
結局、現時点で日本経済の長期的展望を予想することも最適な投資方針を決定することも不可能であり、それらへ決定的な影響を及ぼす「今後の政府・日銀の政策方針を見極め、それに沿って対応する必要がある」ということになると思います。
 
具体的には、()の政策を予想する場合には資産投資は極力減らして次の景気の底をじっくり待つことになります。(当面の投資方針は売りです)
 
一方、()の政策を予想するのであれば、長期トレンドは拡大期に入ると期待できるため、一時的な下落に耐えられる程度にポジションを軽くしつつも高い収益率の資産は保有を継続し、価格調整が発生した場合には押し目は買い向かうのが正解ということになると思います。
 
このように、相場の予想とは分析ではなく政策(またはその前提となる思想)を予想する行為であり、最終的にはカンになると思っています。
 
なお、現在の金融政策の枠組である「インフレーション・ターゲッティング」を前提とすれば、株価下落が景気に悪影響を与える(物価下落が予想される)場合には強力な金融緩和で対応することになるため、(失われた20数年間とは異なり)()の考え方で政策運営されることを期待してもよいことになります。
 
しかし、次の金融緩和局面は現在のアベノミクスより更に緩和的な政策状況(低い金利または日銀に資産が積みあがった状態)でスタートすることになることから、政策転換が遅れることも懸念されます。
 
実際にこのブログで何度か指摘しているように大胆な金融政策を標榜する安倍・黒田体制においても(追加余地が少ないことを背景に)追加の金融緩和が遅れていたことは、将来、金融緩和の遅れから株価下落幅が想定以上に大きく期間が長くなるリスクを感じさせるのに十分な理由となりえます。
 
また、現在の政策委員の顔ぶれを見る限り、適切な政策対応が行われるという確証はありません。
 
そのように考えていくと、長期不安の高い経済社会である日本において需要超過局面(景気の第②局面)に入った現状は、長期的なリスクコントロールの観点からは「資産ポジションを縮小させるべきタイミング」と判断したうえで相場に臨むべきと考えています。