ndtm50の日記

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ギリシヤのユーロ離脱で起きること

今回のブログでは、ギリシヤがユーロを離脱するとどうなるかを考えてみたいと思います。


とりあえず今回のごたごたでは、ギリシヤがこれまで同様の緊縮策を受け入れてユーロ圏諸国の支援を受けることになりそうですが、反緊縮で国民の意思が明確になっていることから、長続きしないと思います。


マーストリヒト条約にはユーロ圏からの離脱を定めた条項はないので、実際に離脱するときにどのように離脱するかは分かりませんが、過去の事例等からいくつかのシナリオに分けて考えてみました。


まず、ユーロを離脱するためには、ギリシヤ中央銀行が独自通貨(新通貨)を発行して、国内でのお金のやり取りを新通貨に制限します。

一方、(ギリシヤの)国内法の適用を受けない海外との取引は、新通貨を強要することはできませんので、引き続きユーロで行うことになると思います。
(但し、国内法人に外貨支払いの制限をつけることはできます。)


従って、金融取引をまとめると以下のとおりになります。

・国内の通常取引(商品の売買など):             新通貨建てに切り替え
・国内の金融取引(銀行預金、銀行からの借り入れなど): 新通貨に切り替え
・海外との貿易決済(輸入代金の支払い):          ユーロなどの外貨
・海外投資家向けに発行した債券などの資本取引:    ユーロなどの外貨

国内の取引を新通貨に切り替えるためには、銀行を休業させ、国内の資金取引を制限した上で、スケジュールを定めて、国内の預金・債権債務を新通貨へ強制的に切り替えます。

そして、銀行の営業開始とともに、新たな取引(商品の売買など)は新通貨を強制します。

ここまでは、国内のことなので、国内法を整備することで行うことが可能です。また、新通貨はギリシヤ中央銀行がいくらでも発行することができますので、流通に問題は発生しません。

新通貨とユーロの交換は、公定レートを定めて一定期間は固定レートにすると思います。
(そのためには、取引に強い規制をかけることが必要です。)

国内での支払いは、いくらでも発行できる新通貨で行いますから、目詰まりを起こす心配はありませんが、課題は海外への支払い(外貨建て)です。


海外への支払いは二通りあり、1つは既存の債務(主に政府債務)の返済、二つ目は輸入代金の支払いです。

なお、ギリシヤは大幅な貿易赤字ですが、観光と海運のサービス収入があり、経常収支は2013年、2014年と連続して黒字となっています。(但し、観光は夏に偏っているため、月次でみると経常収支赤字の月が多い)

従って、投機的な外貨取引を制限して、外貨収入を輸入品の支払いに当てることができれば、理屈上は現在の経済水準を維持できることになります。


さて、海外への支払いの方法ですが、以下の3通りがあげられます。

1)デフォルト宣言を行い、過去の債務は支払いを凍結する。
2)新通貨を外国為替市場で外貨に交換し、外貨を支払う。
3)外国の中央銀行(特に欧州中央銀行)とSWAP協定を結び、新通貨とユーロのSWAP取引で調達したユーロを外貨支払いに当てる。

1番目のデフォルト宣言ですが、公的機関による支払いは完全に凍結し、民間の債務も外貨での支払いは制限することになると思います。(民間の債務を勝手にデフォルトにはできませんので、支払いを新通貨に限定する)

この場合、国際的な信用力は大幅に低下しますが、すでに指摘したように経常収支が黒字のため、その後の外貨の支払いは大幅に楽になります。
(信用の低下で新規の取引における支払いは現金取引を強いられるため、切り替え時に一時的に資金繰りが苦しくなると思いますが、ユーロ建てだった国内の銀行預金を全て差し押さえて新通貨に切り替えていますので、その準備資金で輸入代金の支払いは可能と思います。)

これは、会社更生法民事再生法を申請した企業が、営業収支ベースで黒字が出ていれば、その後の資金繰りが楽になるのと同じです。

なお、信用の毀損や輸入の滞りを避けるために民間の既存取引における債務の支払いを許容した場合、その民間企業が新通貨を外貨に交換する必要があるため、為替レートの維持が難しくなります。従って、2番目の外国為替市場で外貨に交換するパターンとデフォルトの組み合わせということになります。その場合に発生することは、2番目のパターンを参考にしてください。



2番目の新通貨を外国為替市場で外貨に替えて支払うパターンですが、これは、基本的には第一次世界大戦後にドイツ(ワイマール共和国)が賠償金支払いに利用した手段と同じです。

巨額の支払いにあてるため、中央銀行が新通貨を発行(国債引受)し、外国為替市場で外貨に交換します。当然、足元を見られますので、為替レートはどんどん下がっていき、公定レートの維持は不可能となります。(十分な外貨準備がないため、投機筋が交換に応じるレートでなければ取引が成立しないため)

第一次世界大戦後のドイツでは、まず、外国為替市場でマルクが大幅に売られ、輸入品の価格に引っ張られて国内でインフレが発生しています。(マネーサプライの過剰供給がインフレの要因ではありません)

賠償金の金額が半端じゃなかったため、為替の下落も大幅になり、結果としてハイパーインフレという減少が起きました。

それにより、以下の現象が発生しています。

①割安となった国内の資産が外国人に売却された
②実質賃金の下落により、経済が活発になり、世界で最も景気が良い状況となった
③価値の下がる現金を避け、商品で保有するようになったため仮需が発生し、これも景気を押し上げた

これによる損得は以下のとおりです。これは何度も書いてきたユーロ離脱の場合の損得です。

利得者:
・現在失業状態の若者(好景気で職に就くことができるようになるため)
・銀行からの借り入れが可能であった銀行家
※ ドイツでは産業育成のために国内金利を低位に据え置いたため、インフレで借り入れの実質価値が下がり、
  借り入れで投資した事業家の資産が急拡大した。

犠牲者:
金利生活者(産業育成のために金利は低位に抑えられるため)
・高賃金労働者(実質賃金の低下)
・金融資産を保有している中間層
  新通貨に強制切り替えとなった債券(預金、国債社債、抵当権などの価値が低下


こうした副作用を最小限に抑えて、景気拡大による失業率低下のメリットを得るためには、通貨の下落をいかに制御しながらマイルドなものにとどめるかが問題となります。そのためには、新通貨から外貨への交換したいという需要をいかに抑えるかが課題となります。

外貨需要を抑えるための究極の方法が、外貨取引の制限とデフォルトという1番目の方法です。

為替レートの変動を抑えるもう一つの方法が、3番目のスワップ協定の活用です。


スワップ取引とは、新通貨と外貨を1定期間交換する取引のことです。スワップ協定とは、中央銀行間で双方の外貨を融通するため、一定額の範囲でスワップ取引を行うことを予め約束しておくことです。

スワップ取引とは、自国通貨を担保に外貨を借りることでもあります。貸し手からすると、そのまま貸すと額面全額が返ってこないリスクがあるが、スワップ取引であれば、リスクは為替変動リスク(及びその間の金利分)に限定されるため、リスクは大幅に軽減することができます。

あまり知られていませんが、1998年に銀行危機が発生したときに日本の金融機関もこの方法を利用して外貨を調達して乗り切っています。

マーストリヒト条約にユーロ離脱の取り決めがないため、欧州中央銀行スワップ協定に応じるかは不明ですが、すでに多額のエクスポージャーを抱えていることを考えると、スワップ協定でそのリスクを額面から為替リスクに変換できるスワップ協定は理にかなう方法ですから、応じる可能性は高いと思います。

資本規制を行いながら、スワップ協定で調達したユーロで対外支払いを行いつつ、為替の公定レートを徐々に切り下げて国際競争力を高めることで国内経済を活性化すれば、現在の緊縮状態よりかなりよい状況になると確信します。(それでも2桁程度の高いインフレは発生するでしょうから、2番目に上げた利得者と犠牲者への影響は避けられないと思います。)


ギリシヤの将来は、政府債務が巨額に膨らんだ日本に対しても大きなインプリケーションが得られます。それは、過去の債務は以下の方法で返済するほかないということです。

①経済活性化による稼働率引き上げ
②インフレによる実質賃金の引き下げ
③インフレによる金融資産の実質価値引き下げ
通貨切り下げによる国家財産の対外売却

②③の比率を極力抑えて、①の比率を上げることが国民福祉に資すると思います。

なお、④はいろいろなパターンがあり、紙幣(紙きれ)や水路を引いた砂漠を売却しているアメリカなどはその痛みを全く感じていません。(当然です)
これについては、そのうち書こうと思っています。

なお、次回は、このまま行けばどうなるかを考えてみたいと思います。